
FRBの株主は?

FRB(米国連邦準備制度)の「株主」については、特殊な仕組みが存在します。以下、詳細を整理します。
FRBの株主
1. FRBの「株主」の正体
(1) 連邦準備制度の構造
- 連邦準備銀行(地区連銀):
全米12地区に分散(例:ニューヨーク連銀、シカゴ連銀)。
各地区連銀は「民間銀行の出資」で設立された法人です。 - 「株主」の実態:
連邦準備法に基づき、**加盟銀行(メンバーバンク)**が「地区連銀の株式」を保有します。- 例:JPモルガン・チェースはニューヨーク連銀の株式を保有。
(2) 株式の性質
- 通常の「株」とは異なる特徴:
- 議決権の制限:経営に関与できず、役員選任権なし。
- 配当金の上限:年6%固定(連邦準備法で規定)。
- 売却不可:加盟銀行以外への譲渡が禁止。
2. 具体的な保有状況(2023年現在)
(1) 主要株主(加盟銀行)の例
銀行名 | 保有連銀株式額 | 権限 |
---|---|---|
JPモルガン・チェース | 約4.3億ドル(ニューヨーク連銀) | 年次総会での発言権のみ |
バンク・オブ・アメリカ | 約3.1億ドル(サンフランシスコ連銀) | 同左 |
シティバンク | 約2.8億ドル(ニューヨーク連銀) | 同左 |
(2) 株式の「非公開性」
- 市場での取引なし:
連銀株式は公開市場で売買されず、加盟銀行が強制的に保有を義務付けられています。 - 情報開示の限界:
個別銀行の保有比率は非公開(「国家安全保障」を理由)。
3. なぜこの仕組みが成立するのか?
(1) 歴史的経緯
- 1913年連邦準備法:
中央銀行の「民間管理」を目指し、ウォール街の銀行家が制度設計に関与。 - 公共性とのバランス:
利益追求を制限する代わりに、通貨発行権を付与。
(2) 現代的な意義
- 政府からの独立性担保:
連銀が政府の財政操作から独立するための制度的装置。 - 金融業界の関与維持:
銀行が連銀政策に「間接的影響力」を持つことで協調を確保。
4. 日本銀行との比較
項目 | FRB | 日本銀行 |
---|---|---|
出資者 | 加盟銀行(民間) | 政府55%+民間45% |
議決権 | 経営に関与不可 | 民間株主も議決権保有(但し制限あり) |
配当金 | 年6%固定 | 剰余金の5%以内 |
売買可能性 | 不可 | 市場で取引可能(上場済み) |
5. よくある誤解と事実
誤解:
「FRBはロスチャイルド家や秘密組織が支配している」
→ 事実:
- 連邦準備制度の全資産は財務省が最終責任を負う(12 U.S.C. § 246)。
- 連銀の利益は90%以上が財務省に納付される(2023年納付額:1,042億ドル)。
誤解:
「FRB株主が金融政策を操作できる」
→ 事実:
- 金利政策はFOMC(公選メンバー中心)が決定。
- 地区連銀総裁の投票権はローテーション制(JPモルガン出身者でも常時投票権なし)。
6. 専門家の見解
- ベン・バーナンキ(元FRB議長):
「連銀の株式は単なる法的形式。実質的な意思決定権は公的機関が握る」 - ノーム・チョムスキー(政治学者):
「制度的には民間管理だが、ウォール街の影響力は構造的に組み込まれている」
結論

FRBの「株主」はあくまで制度上の形式的存在です。実質的な政策決定権は議会の監視下にある公的機関(FOMC)が掌握し、「民間銀行の出資」という形は歴史的経緯と独立性維持の妥協策と言えます。ただし、この構造が金融業界との癒着リスクを潜在させている点は、現代の中央銀行ガバナンスにおける重要な課題です。
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